AIとはArtificial Intelligenceの略で、「人工知能」と訳されます。広い意味では、人間の脳の働きを模倣し、人知が及ばないような知能、人格を持ったシステムを指しています。狭い意味のAIでは、例えば画像の認識ができる、碁ができるといった、特定の機能だけを高め、認知や推論を含めて自動化したものを指すことが多いです。どちらの場合も、コンピュータの処理能力の飛躍的な向上や新たな機械学習アルゴリズムの登場で、近年大きな進化をみせています。
AIの事例としてよく目にするのが、先に述べたような碁や将棋、テキストや音声による自動応対などですが、工場や製造機械といった工業分野での活用も広がりつつあります。その事例について、また今後の工業分野におけるAI活用の展望について、考察していきます。

AIの歴史

工業分野におけるAIの話の前に、AIのこれまでの歴史について整理します。

第1次人工知能ブーム

AIの歴史は古く、1946年に世界初のコンピュータ、ENIACが開発され、翌年にはコンピュータ科学者であるアラン・チューリングにより人工知能の概念が提唱されています。1956年にはアメリカの人工知能研究者ジョン・マッカーシーがAIという言葉を初めて使いました。1960年代に入ると、多くの資金が投入され、AIの研究と開発が盛んに行われます。第1次の人工知能ブームと言われています。
この当時のAIは、決められたルールとゴールがあるゲームにおいて、ゴールにたどり着けるように可能な選択肢をすべて行っていく、または対戦するゲームでより自分が有利になる状況を作るように行動するなど、推論と探索を繰り返していくものでした。このようなAIでは、ゲームやパズル、数学の定理の証明など、決められた枠での問題解決はできても、さまざまな問題が起こる現実的な世界では役に立たないと言われます。当時のコンピュータの処理能力の限界もあり、1970年代に入ると第1次のブームは衰退していきます。

第2次人工知能ブーム

そして、コンピュータの能力が徐々に向上し始めた1980年代に第2次の人工知能ブームが起こります。第2次の人工知能ブームでは、特定分野のデータベースを元に判断や問題解決するエキスパートシステムが登場します。膨大な知識やルールなどを人間の手によりコンピュータにすべて入力することで、それに基づき人間のように受け答えしたり、物事を判断したりできるようにしたのです。特定の分野では大きな効果を出したエキスパートシステムでしたが、一つのルール変更でそれに合わせて他の多くのルールを変更する必要が生じたり、例外的な事例が発生すると全く判断ができなかったりなどさまざまな問題が後に出てきます。80年代後半になると、維持管理に莫大な費用がかかるなど、複雑に入り組んだ現実の世界ではやはり役に立たないとされ、第2次の人工知能ブームも終焉しました。

第3次人工知能ブーム

そして2000年代に入り、第3次の人工知能ブームが起きます。コンピュータの処理能力は飛躍的に上がり、スマートフォンのように、ひと昔前のスーパーコンピュータ以上の処理能力を持つデバイスが手の平に載るようなサイズレベルで存在します。価格も非常に安くなり、誰でも手の届くものになりました。さらに、インターネットやIoTデバイスが普及することで、あらゆるところから膨大なデータを得ることも容易になりました。このようにして得られる膨大なデータと、以前では考えられないほどの処理能力を使い、AIの能力は飛躍的に進歩していきます。大量のデータから自分で物事を分類するルールを見つけだすディープラーニングのような機械学習アルゴリズムや、ビッグデータによる解析などが登場することで、専門分野はもちろん、一般社会のあらゆる分野にAIが浸透しつつあります。GoogleのTensorFlowのようなAIエンジンのオープンソース化も動き始め、より身近で利用しやすい技術になりました。

さまざまな分野に広がるAI活用

例えば、最近のコンビニでは、AIによる店舗運営の効率化が進んでいます。商品管理を行う専用のパッドにはAIによる提案機能が搭載され、今までの商品の売れ行きやその日の天候、近隣のイベント情報などから判断し、最適な商品数をAIが提案します。これにより、現場で調理を行うような商品は、時間経過による廃棄のロスが最小限に抑えられ、欠品のリスクもなくなります。

医療分野では、膨大な論文のデータから、医師も気づかなかった症例を見つけだし治療に役立てられた例もあります。大勢のなかから特定の人を見つけだす画像認識、音声認識などの能力も飛躍的に上がっています。コンシェルジュのような役割やリコメンドが行え、人間に対しての受け答えも従来と比べてより自然になりました。やがてロジカルな作業はすべてAIが行い、人間は創造的な仕事だけを行うようになる、人間の最後の発明は最高のAIであるとさえ言われています。AIの技術が今後もさらに発展していくのは間違いありません。

工業分野におけるAI活用

このように、さまざまな分野で導入が進むAI。工場のラインや製造機器などに使用される組み込みシステムにも広がりをみせています。かつての工場では、機械は人の手で動かされ、スイッチやダイヤルなどを調整して運転、管理されていました。もちろんネットワークにも接続されず、単独で動いているのが普通でした。やがて組み込みシステムにより機械が制御されるようになり、機械がネットワークに接続され、個々の機械の情報はネットワークを介してやりとりされるようになります。今では、情報は工場内のサーバに集められ、集められたデータはサーバで処理され、必要な情報が機械へ返されるか、さらにクラウドに上がり各地の工場で共有されるまでになりました。このように集められた情報は、AIで解析され、より最適な機械の稼働状況の算出や、機械のメンテナンス時期の予測、故障を事前に警告するなど、さまざまな用途に使われ、工場の効率を上げることに役立てられています。

膨大なデータを扱ううえでのリスク

しかし、ここで一つ問題があります。今はまだネットワークに接続されていない機械も、今後はネットワークに接続されていくことになります。大規模な工場であれば、その数は相当なものになります。さらに、各機械は無数のセンサーなどから大量の情報を送りだすことになります。これらの情報が一度にサーバを通してクラウドに上がれば、いずれその処理能力をオーバーしてしまうかもしれません。また、クラウドに情報を上げてAIで解析を行い、その結果を戻すにはある程度の時間がかかります。危険の回避、故障前の警告など即時性が要求される動作の場合、間に合わないことも考えられます。すべての情報をそのままクラウドまで上げることは、いろいろな点で無理が生じます。

データ負荷の分散とエッジデバイスの重要性

そこで考えられるのが、インテリジェンスなエッジデバイス。AIを搭載し、ある程度の部分まではローカルなところで判断、より複雑なものはクラウドまで上げて解析するように振り分けるというものです。機械により近いところでデータを処理、判断することで、即時応答が可能になり、クラウドでの処理の負荷を軽減、通信量も抑えられます。また、ローカルで学習したものがクラウドに上げられれば、その学習結果をクラウドに接続されたすべての機械で共有することも可能です。このようなセンサーデバイスと、推論エンジンが一体となった低消費電力のインテリジェンスなエッジデバイスは、今後大きなビジネスになると予想されます。

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